遺伝子組み換え(GM)作物の研究を進めている日本たばこ産業(JT)や三菱化学など国内の主な開発メーカー6社は2日、食品として商品化することを当面見送る方針を明らかにした。国内ではGM作物の安全性に対して消費者の不安が広がっているため、現状では食品として市場に受け入れられず、企業イメージもダウンすると判断した。一方、技術的に先行する欧米メーカーが開発したGM食品が国内に輸入されており、欧米メーカーによる技術や市場の支配を心配する声もある。
GM作物は、病気や害虫に強くしたり、収穫量を増やしたりするため、ほかの生物や品種の遺伝子を組み込んで新しい性質を加えた作物で、農業の生産性や効率を高める目的で研究開発が進められている。すでに米国メーカーを中心に特定の除草剤や害虫などに強い性質を持つ大豆やトウモロコシ、菜種などが商品化され、大量に生産されている。
国内では、農林水産省や自治体の研究所などが研究を進めているほか、1980年代後半から民間企業が主にイネや野菜などの研究開発に乗り出した。日本で食品にできる可能性があるGM作物を研究開発する場合、農水省から環境に対する安全性の確認を受ける必要がある。これまでに確認を受けた国内メーカー(外資系を除く)は、JTグループ、三菱化学グループ、三井化学(いずれもイネ)、種苗メーカーのタキイ種苗(カリフラワーなど)、キリンビール、カゴメ(いずれもトマト)の6社。食品化するには、さらに厚生省による安全性の確認が必要だが、この6社が技術的に先行している。
しかし、96年以降、米国などからGM技術を使った大豆やトウモロコシなどが輸入されると、消費者の間に害虫に強い遺伝子を組み込んだ作物などの人体への影響を危ぐする声やアレルギーなどを心配する声が高まった。一部の生活協同組合でGM食品を排除する動きも出ている。
これらの反響を受け、キリンビールは昨年8月、GM技術による日持ちの良いトマトの研究を中止。そのほかのメーカーも「消費者の理解が必要」(カゴメ)、「現状での商品化は困難」(JT)などとして、6社すべてが食品化を見送ることになった。消費者に安全性が理解された時には商品化する方針だが、見送り期間は数年間になる可能性もある。キリンビールは新たにGM技術を使った花の研究に取り組み、ほかのメーカーは今後も研究を進めるなどして将来の食品化に備える。
(朝日新聞
2000年5月3日朝刊)